未来・空
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「心太、早く来なさい」
まだ幼さも残る、三姉妹と共に、小さな心太がいた。
「お腹空いたでしょ、心太。何か買ってくるからそこで待ってなさいね」
三姉妹のうちの一人がそう言うと、姉妹揃って買い物に行った。
一人呆然とする心太の視界に、何処かの一家の姿が映った。
おおらかで力強い父親に、優しそうな母親と、仲良さそうに笑う、その子供兄弟達…。
一家団欒な様子を、心太はぼんやり眺めていた。
するとその視線に気付いたのか、その子供の一人が心太の方を見た。
フイっと視線を反らす心太。
憐れみな見方をされた気がしたから…。
「僕は可哀想な子供じゃない」
心太は変な意地があったのか、今度はその一家を睨むように見た。
その先にはさっきと変わらずの団欒一家の姿があった。
だが、心太を見ていた少年の姿がない事に気付いた。
「…あれ?」
独り言のように心太が呟くと、その背後から声がした。
「わっ!」
「っ!?」
心太は驚いた。
その少年が目の前にいたから…。
「君、何歳?」
爽やかなその少年は、気軽に心太に語りかけた。
「…か…関係ないだろっ…」
またもや変な意地が、心太を素直にさせなかいのか、心太は無愛想に返した。
「…そうか…そうだね…歳は関係ないよね」
爽やかな少年は、フムフムと頷きながら納得していた。
「すまない、愚問だった…、改めて名前を聞きたいな。君名前は?」
心太は拍子抜けした。けれどそれが更に素直にさせなかった。
「…そっちから名乗れよ」
心太の内心は気まずかった。
だが少年は爽やかなままだった。
「これは失礼だった、俺は山口一」
堂々と少年は名乗った。
「…ぼ…僕は心太…」
心太は顔を真っ赤にした。気の小さい自分が内心恥ずかしかった。
「…さっきはごめんなさい」
素直な心太になっていた。
「何か悪い事でもしたの?」
少年は不思議そうに心太を見た。
「え…だって…僕…君の事…嫌な奴だと思ってしまったから…」
「はじめって呼んでいいよ」
変わらず爽やかにそう言う少年に心太は戸惑いつつ、その少年の顔を見ながら、ようやくニッコリ笑った。
「よろしく、心太」
爽やかな少年、一はそう言いながら心太の手を握って握手をした。
「こちらこそ…よろしく…はじめ君」
心太も照れながら握手し返した。
「そうだ!俺の家に遊びにおいでよ!」
一はニッコリ笑って言った。
「あ…」
だが心太は表情を曇らせ俯いた。
「ん?どうした?」
一が尋ねた。
「…僕…行けない…」
「何故?」
心太の表情が段々暗くなっていった。
「僕…姉さん達と旅してる最中だから…」
「お姉さんがいるのか」
「…うん」
自分は人飼いに差し出され、その中で今日知り合ったばかりの姉妹と旅を…とは、さすがに言えなかった。
「じゃあ、いつまで此処にいられる?」
一は普通に尋ねる。
「…わからない…姉さん達が帰ってきたら、もう会えないと思う」
「じゃあ今すぐおいでよ!」
「え…でも…」
「いいから早く早く!時間無いんだろう?」
一は心太の手を掴み、引っ張っていった。
『すぐ戻ればいいか…』
心太は心の中で呟いた。
一の家は武家らしく、心太は恐れ多くて縮こまりそうになった。
「はい、これ持って」
と、突如何気に渡されたのは竹刀。
今まで手にすらした事ない竹刀に戸惑う心太だった。
「…これで何をするの?」
心太が不安そうに訊いた。
「強い男になれる為の練習だよ」
「え…?!」
「心太は姉さん達を守らなくちゃいけないんだよ」
一の真面目な姿に驚きつつ、そうかと納得していく心太。
「俺が小さい心太でも強くなれるよう、技を色々教えてあげる」
「小さいは余計だよ!!…でも…あ、ありがとう…」
心太は嬉しかった。
強くなりたいという自分が心の中にいたから…。
一に色々な技を教えてもらいながら、その隠れた才能をかもし出す心太。
一もその心太の隠れた才能に惹かれてどんどんのめり込んでいった。
時も忘れるくらい、二人は夢中になっていた。
そしていつの間にか日が傾いていた…。
「あっ…もうこんな時間だ…」
楽しいひと時が終わる…こんなに楽しいのは初めてかもしれないのに…と、心太は寂しくなった。
「大丈夫、また会えるさ」
「本当に?」
不安な顔の心太に、ニッコリ笑い一は言った。
「そうだ!また会えた時の合言葉を作ろう!」
「え…?!」
一のいきなりの提案に、心太は困惑していた。
「また会えるおまじないにもなるかもしれないし」
「あ…そうだね」
心太の表情が明るくなった。
「何にしようか…」
うーんと二人とも考え込む。
「…未来…は…どうかな…」
心太がポツリ呟いた。
「未来…か…いいな…それ…」
「未来…また会えるように…」
「もう一つ…」
一が更に加えて言った。
「…空だ…」
「空?」
心太は空を眺めた。
「たとえ遠くにいても、空は一つ。そして繋がっているだろう?だから空だ」
「うん!そうだね!空…未来と空…決まりだね、はじめ君!」
心太は更に明るい顔になり、その空をまた見上げた。
「また何処かで会おう、心太」
「うん!はじめ君!」
二人はまた握手を交わした。
「もう行かなくちゃ…またね…はじめ君」
「ああ…心太」
互いに手を振りながら…そして走っていく心太を、一も暖かく見送った。
だがその日は…心太にとって人生最初の転機でもあった。
その夜に守ろうとした三姉妹は殺されてしまう。
そして、ある男と出会い…剣客として心太から『緋村剣心』へと生まれ変わる…。
「もっと強くなりたい…!」
心太は剣心として、以後動乱の幕末時代『人斬り抜刀斎』と呼ばれ、その時代を駆け抜けていった。
その少年との少しの時間の思い出を片隅に抱いて…。
「オイ…いつまで寝てやがる」
低く不機嫌な声が、剣心を夢から起こさせた。
「あ…あれ?拙者いつの間に…」
「…人が任務で忙しくしている横で、呑気に居眠りやがって…」
「す、すまんでござる…斎藤」
剣心は申し訳なさそうに謝った。
「フン…平和ボケの阿呆が…」
斎藤は皮肉を言いながら煙草に火をつけ、ため息をつきながら煙を吐いた。
「とても懐かしい夢を見ていたでござる」
「……」
「お主と同じ名前でお主とは正反対な…爽やかなな友でござった…合言葉は未来と…」
と、そこで剣心の言葉が止まった。
「…何だ…」
「…わ…忘れてしまったでござるっ…さっきまで夢で出ていたのに…?」
よくある、夢から覚めたらその記憶がない、そんな現象が剣心にも起こっていた。
「…フン…ボケもいい加減にしろ…くだらん」
斎藤は冷たく返した。
「くだらんとは酷いでござる…拙者にとっては大切な話でござるよ!」
剣心は反論した。
「そんな大事な事を忘れるお前が、くだらんと言っているんだ」
斎藤は煙草の灰を落とすと、窓側に立った。
「…空…だろうが…」
斎藤が小声で呟いた。
「え…あ…!」
剣心は思い出した。
「そうだ!空でござる!って、何故お主がわかったでござるか?」
剣心は首を傾げた。
「…何処までボケの阿呆なんだ…ああ悪かったな…今は爽やかな人物じゃなくて…」
「えっ!?ま…まさか…」
「…とんだ再会といった感じか?…ああくだらんくだらん…」
「え――っ!?…し…信じられないでござるっ…あの爽やかな少年が…斎藤だなんて…」
「…貴様…殺されたいのか?」
「うわ~~かなりショックでござる~…」
「…殺す!」
その後暫く二人の漫才風景があったのは…此処だけの話である。
「…でも…会えて嬉しいでござるよ…はじめ君…」
「…今はその呼び方はやめろ…鳥肌が立つ…」
「そんな照れなくていいでござるよ?はじめ君?」
「殺す!!」
また漫才風景が始まるのだった…。
―完―
あとがき
これは昔参加していた剣心受けサークル様の会誌に載せて頂いた小説でした(多少加筆してますが)vv
こんな斎藤様がいてもいいなーなんて思って・・・。(笑)
て事で、お粗末でしたm(__)m