深々と…
《土方×沖田(絡み省略)》
※戻る時は各ブラウザで戻って下さい※
一年の締めくくりの師走とあって、京の都も例外なくどこか騒々しい雰囲気を漂わせていた。
壬生村の屯所をあとにして西本願寺に移動し一時期不動堂にも移転したが、薩長同盟以来伊東甲子太郎の件等もあって間もなく、今月に入って更に天満屋事件もあって一層強まる西南から来る長州や土佐からの侵攻を防ぐべく、
やがて今の伏見奉行所へと屯所も移動した。
といっても奉行所の敷地内という事、他の人間もいるわけでまだ移動した直後でほとんど馴染んでもいない為、騒々しく以前のようなリラックスムードも当然なく、年末という時期と重なりピリピリ空気が張っていた。
「土方さん土方さん♪」
そんな中でもこの声だけはいつも変わらず明るい。時にはうっとうしいと感じる時もあるが、今はこの明るさが対照的で心地好い。
「何だ総司」
ちょっと気分転換に軽い気持ちで相手してやろうと思った。
「知ってます?今月はくりすますというものがあるんだそうですよ?」
やはり世間話か…といつもながらコイツはどこを見てやがると思う。
「は?何だそりゃあ」
「くりすますって…キリスト教の行事なんだそうですよ?イエスキリストが生まれた日のお祝いなんですって」
「何だ宗教な話か…くだらねぇ…」
思わず溜め息が出てしまう。
「でね、お祝いするのにケーキなんてものが食べれるんだそうですよ♪とっても甘くって美味しいんですって!食べたい~♪」
「またお前の食べたい話かよ…結局そこかい」
「だって食べたいものは食べたいし!」
「あーくだらねぇ…こっちはいつ長州薩摩が攻めてくるかもしれない緊張状態なのに、そんなもの食ってる暇もねえよ」
「えー~…近所で食べれる店見つけたのに~」
総司はちょっと拗ねたふうに口をとがらせた。でもとある物を発見して顔がニヤっとした。
「土方さん、それ何なんですか?」
部屋の隅に盆栽とはまた違うちょっと大きめの洋風な植木鉢が置いてあった。
「これって…くりすますつりーって言うもんじゃないんですか?」
「し…知らねーな…俺のモンじゃねえよ」
総司はその植木鉢の傍まで近寄ってじーっと見て更にニヤついた。
「土方さん…何でこのつりーに短冊みたいなのがついてるんですか?」
「ばっ…馬鹿っ…そんなに見るんじゃねぇ!」
「しかも…何か書いてますよね?…何か文字からみて…あ!例の俳句だったりして…」
「おま…何でそれを知ってるんだ?!」
慌てた。やはりどこをいつも見てやがるんだ…。
「やっぱりそうだったんですか?って、土方さん気づかなかったんですか?もうみんな知ってますよ?土方さんが俳句詠むの好きって♪」
「…っ…」
言葉が出なかった。鬼と呼ばれる面子が丸つぶれと思った。
「…て事は…土方さんもくりすますを知ってたって事ですよね?」
「知らんっ」
「ふ~ん…そっか~…」
ヤバイと思った。総司が鼻で「ふ~ん…」という時は、必ず何か思惑があるという事なのだ。
俺は即背を向けた。何がくるのか予想がつかない。
「土方さん…くりすますは…七夕とは違うんですよ?短冊飾ってどうするんですか…」
「…何?…」
短冊に俳句を書く事やその中身ではなくそこがオチなのか?というか、その事は俺は全く知らなかったので少し拍子抜けした。
だが、違う意味で一気に照れくさくなった。どのみち総司にしてやられたには違いないのだから。
「もう…土方さんらしいというか…いじめ甲斐があるというか…」
俺はその言葉に一瞬何かが高ぶった。
「あっ…」
気づけば総司を押し倒して覆いかぶさっていた。
「…この野郎…俺をいじめるだなんて…よく言う…」
「…土方さん…っ」
顔と顔が凄く近い距離で呟くように俺は言ったと同時に、俺の口唇は総司の口唇をふさいでいた。
「…んっ…っ」
暫くその熱く甘い感触に浸りながら更に舌を入れ込んだ。
「…っ…んん…っ…」
だが突然総司がハッっとなって口唇を離した。いつもならこのまま浸り続けてそのまま抱き合うはずが、意外な反応に俺もうっかり起き上がってしまった。
「…どうした?総司」
「……ダメですっ…」
「何がダメなんだ?」
「…私は……」
何か言おうとしてやめたのがわかった。
総司はふっと起き上がり、そのまま俯きながらくるりと背を向けた。
その隠れた顔は物悲しそうな…淋しそうな…そんな表情をしているのを俺は見えなくてもわかった。
「何か言いたいんならきちんと言え…」
俺はハッキリしないのは嫌いだから、ついそっけない言葉で返してしまった。
でもそれは総司も十分知っているはず。だから俺はいつも通りにそう返したのだ。
「……私は…もう…土方さんに…抱いてもらうわけにはいかない…んです…」
「何故だ?理由は何だ…」
「それは…」
総司は言葉につまった。
暫く沈黙が続いた。外はうるさいはずなのに、何故か耳には入って来ないほど静かだった。
俺には何を言われるのかわかっていた。そして俺が口を開いた。
「…労咳…だろう?」
「え…土方さん…知ってたんですか?」
総司が顔を上げながら不思議そうに言った。
「何年お前と一緒にいると思ってんだ…」
「だって…隠してたのに…」
「お前は俺のどこを見てるんだ…それくらいは知ってて当たり前だ」
「え…でも…」
「あの咳を見れば俺みたいなやつにはわかるのさ…医者じゃなくてもな」
「でも…じゃあ尚更…なんで知ってて抱こうとしたんですか?」
総司が素朴に聞いているのが目を見てわかる。
純粋な澄んだ瞳。真っ直ぐに俺を見ている。
「…俺は経験者だ…お前は知らないだろうがな…」
「え…そうだったんですか?」
「だからすぐわかるし…俺はもう完治している身だ」
「治ったんですか」
「当たり前だろ?だから俺の薬は半端じゃねえのさ」
「え…でもそれって…打ち身とかの薬じゃ…」
「治ったには変わらねーんだから…従って俺には免疫がついてる!だから心配ないし安心しろ」
「……」
俺はとりあえず自信持って断言した。その姿がおかしかったのか…
「…ククっ…土方さんってば…おかしい…ですよ」
そう言って笑い出した。
「何がおかしいんだ!俺は普通だ」
「おもしろすぎですよ…」
「人の顔見て笑うなっ…失礼だぞっ」
「だってホントに面白いんだもん…クスクス」
笑い続ける総司を俺はそっと抱き寄せた。
「…総司…」
「…土方さん…」
そっと口唇同士が重なるかと思いきや、また総司がよけた。
「お前っ…」
「あーーっ!見て下さい!外っ…雪ですよっ」
「そんなものはどうでもいい!寒いだろが!」
「でも綺麗ですよ~」
そう言って総司はそのまま腕から逃れて外へ出た。
「ったく…どこを見てるんだか…」
俺もしょうがなく渋々外へ出た。寒い。顔を寒さでしぼめながらよく平気でいられる総司を呆れながら見る。
「土方さん♪」
不意に呼ばれて顔をあげたらすぐそばに総司の顔があった。
「…っ…」「……」
総司の口唇が俺の口唇をふさいだ。
「…お前…口唇冷たいぞ…俺が温めてやる…」
俺は改めて総司に口付け返した。
夜になった。あれから雪はやまずに深々と降っている。
「こりゃ朝は積もってるな…」
すぐ横でスースー寝ている総司を見て、雪の中を子供のようにはしゃぐ姿が目に浮かんだ…。
そんな夜に総司といると…とても切ないような…甘いような…何とも言えない感覚になる…。
総司が俺のそばにいる…互いに温もりを感じともに抱き合いながら…。
俺はいつもよりもその余韻に深く暫く浸っていた…。
部屋の隅には、総司が店だけで飽き足らず買って帰って食べ終わったケーキの皿が行灯の灯りにぼんやり照らされていた。
そして――その雪の積もった翌日に近藤さんが狙撃され、その二日後には総司も近藤さんと一緒に大坂へと旅立ったのだった。
やがてそれから半月もしない頃に大砲の火があがり、鳥羽と伏見の町があちこち焼けて…総司はもうそばにいないのだと、…苦しい戦いの中俺はひたすら痛感するのだった…――
あとがき
いやん…最後切なっ…。
最初イラストだけ描いて終わるつもりが…描いてるうちにストーリーが何となく浮かんで…。
いつもの鬼副長は沖田さんには弱いというごっつー甘い設定になっています。
抱き合うという言葉にはアレも含まれています(アレって何だよ)。既にそういう仲だという設定で。
土方さんが労咳経験者という設定は例の「風光る」からパクっています…汗。で、免疫がどーのこーのという結核の事も私も全然知りません(爆)!
くりすますなんてあったのか自体まず問題外なので(キリシタン関連は全然あっただろうという事で無理やりだしw)、
架空な話として聞き流してくれれば幸いですA^-^;。でも鳥羽伏見の戦いに沖田さんは事実いないのでそのあたりだけ歴史入れたり~。
ともあれ…こんな話自体初めてで(てか新選組のオリジナルの話自体も初だ!)…絵も初めてな(〃▽〃)シーンで( ゚Д゚)ポカーンかもですが、駄作ですいません…汗。
絵も実は左側にいての右向きな人物は過去描けた事なかったんだから!(爆)もしやるなら反転してくっつけてとかだったしf^-^;
BGMはオリジナルでこの話のためだけにちゃっちゃと30分ほどで作った「深々と…」という曲でした★
曲よりも背景の設定に何時間かかっとんねん!状態でした…。
雪を降らせたくてどーしよーもなかったんです…汗。んで色々探して見つけたと思ったら英語ばっかりの説明で…涙。
無理やり勘で読んでやりましたとも。PCによっては表示されないかもですがA^-^;
て事でお粗末様でしたm(_ _)m