彩薫散々

報われない悲恋

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――俺は見てしまった…――


「蒼紫…相談があるでござる」

同級生の緋村にそう相談持ちかけられたのは数日前。

「相談とは?」

緋村は俯きながら細く呟いた。

「…拙者…斎藤の事が好きでござる…」
「!?」

信じられなかった…いや、信じたくなかった…。

斎藤一…この浪漫学校の教頭かつ数学教師だ。まさか緋村が斎藤を…

「悪い事は言わん…やめておけ」

俺は反対した。

「どうしてでござるか?この気持ちは抑えられないでござる!」
「冷静に考えろ。アイツは教師だ。まして教頭だぞ。生徒を相手には出来まい。」
「でもっ…それでもいい…この気持ちだけでも…斎藤に…」

「……」

俺は言葉が出なかった…。緋村のその真剣な思いが俺の胸に突き刺さったからだ…。俺には止められない…。内からこみ上げる思いを俺は奥に仕舞い込んだ。俺は協力する事にした。


俺は斎藤を呼び出す事にした。

「用件は何だ…」

斎藤は静かに煙草の火をつける。

「…緋村がアンタに話があるそうだ…屋上に来てもらいたい」

「……そうか…」

斎藤は静かにそう言い、屋上へ向かった。

俺も密かに後をつけた。悪いとは思ったが、気になるものは仕方ない。そう正当化して…。



そして…俺は見てしまった…

「ん…っ…」

その熱い口付けに、緋村は身動き出来ないままその身をアイツに任せていた…。

俺の内側から何か熱い、どんよりしたものがこみ上げてくるのがわかった…。

「さ…斎藤…」


「わかっているだろうが…お前の気持ちは受け取れない」

聞こえたのはアイツの冷たい言葉だった。

「どうしてっ…」

「無理なものは無理だ…諦めろ」

俺の鼓動が早まる…。もうそこには居られなかった…。緋村の悲痛な思いを感じてしまうから…



「…だから言っただろう…やめておけと…」

「それでもいい…思うだけなら自由でござる…」

その悲しい言葉に、ずっと仕舞い込んでいたものが俺の理性を壊した。

「!!?…蒼紫っ?!…」

俺は緋村を机に押し倒していた。

「何故アイツなんだ…アイツは駄目だ!」
「…!?…あっ…んっ…っっ」

そのまま俺は緋村の口唇を口唇で塞いだ。

「っ…んんっ…やっ…」

緋村は必死に抵抗する…。が、俺はそれを無視した。

「やめ…っ…蒼っ…」

俺はふと緋村の頬から伝う一筋の涙に気付いた。

「あ…緋…村」

「どうして…蒼紫…」

更に溢れてくるその雫は…俺の胸をきつく締め付けた…

「す…すまない…緋村…」

「…っ…」

声ない涙に濡れる緋村を正視出来なくなった。

「…だが…俺はお前が好きなんだ…緋村…」

無駄なのかもしれない…。でも言わずにはいられなかった…。

「……」

緋村はそのまま無言でその場から逃げて行った…

傷つけた…申し訳ない…だが後悔はしていない…

それが俺の本当の気持ちだから…

だがこうなった以上、今までのようにはいかないだろう…

それでもいい…緋村がそう思うように…俺もそう思う…


それが…ただ報われない悲恋の始まりだった。

が、その悲恋はそれにとどまらなかった…そこから泥沼になるとはその時思わなかった。



「四乃森蒼紫、入ります」

俺は教頭室に呼ばれた。

「入れ」

静かに部屋に入った。

「話とは何でしょう?」

斎藤は煙草の火を消しながら静かに口を開いた。

「…あれから緋村はどうしている…」

俺は怒りを覚えた。自分にもこんなに感情があるとは思わなかった。

「…相手にしないのならば、あんな事するな」

「ほぅ…見ていたのか…」

余裕のその表情が俺の怒りを逆撫でする。

「…アンタって人はっ…」

俺は奴に飛び掛っていた。

が、意図も簡単にかわされ、あっけなく取り押さえられた。

「…フッ…教頭相手に勇気があるな…それともヤケクソか?」

俺は見透かされているようなその言葉に、奴の思うがままに動揺した。

「くっ…離せっ…」

斎藤が冷たく笑うのを見た瞬間から…頭がパニックになった。

「っ…!?」
「…」

俺の口唇が塞がれている?!

「っ…んっ…んんっ…」

身体もしっかり押さえられている為、何一つ抵抗出来なかった…

更にその口唇は俺の首筋に行き、制服の上着がスルリと落ち、シャツのボタンまでもが簡単にはずされていった。

「あっ…やめっ…っ」

身体がビクンと跳ねる。

「…フッ…俺が狙っているのは…四乃森蒼紫…貴様だ…」

「…っ…何っ?!…」

何が何だかわからなかった。

「…だから…緋村は相手に出来ない…理に適ってるだろう?」

そう言って微笑しながら斎藤は俺を解放した。

信じられない言葉だった…。だが俺は…緋村を…
緋村はアイツを…

俺はどうする判断も出来なかった…。どうすればいいかわからない…。緋村のためにはどうすればいい…?

「…なら緋村の気持ちはどうなる…」
「知らん…」
「俺は…緋村が好きなんだっ…アンタじゃない」

どうすればいいかわからず、とっさに…無意識に吐くように俺は叫んだ。


「…だったら…緋村を消すしかないな…」

あくまで冷酷な斎藤の言葉だった。

「そんなっ…」

「嫌ならば…俺の言う通りに従ってもらうしかないな…」

「っ…」

俺は奴の言う通りに従う事しか出来なかった…。

緋村を失いたくないから…




――――――――

キーンコーンカーンコーン…

いつも通りなチャイムが鳴る。

「…斎藤っ…待つでござるっ…」

「…貴様には興味ない…ついて来るな」

「…逃がさないでござるよっ…」

「四乃森はどこだ…」

「…此処におりますが…緋村っ…」

「…蒼紫、止めるなでござるっ!」

「いや、そういう意味ではない…待てっ、緋村!」

「待つのはお前だ…四乃森…」

「…あっ…やめて下さいっ…」

「あ!蒼紫!もしやお主も斎藤を?!横恋慕するでござるか?!」

「いや違う…俺はっ…」

「待てと言っている…四乃森」



報われない悲恋模様がそこには延々と続くのだった…。


―完―